
『進撃の巨人』がにわかに周りで面白いと噂になっていたのは、たしか2012年頃だった。この漫画の主人公エレンは、三重の壁に囲まれた生活をしており、壁の外には人間を捕食する巨人が闊歩していた。人類は絶対に巨人には勝てないー当時の絶望感たるや衝撃だった。リーマン・ショック(2008年)、東日本大震災(2011年)を経験し、先行きに希望が見い出せない時代の空気と同調したこの漫画は大ヒットした。
本著は、私たちが当時抱えていたであろう、いや今もどこかで感じている≪漠然とした不安≫を、さまざまな作品を例にしながら、鮮やかに解説してみせる。要約すれば、私たちは少子化や需要の飽和で、経済成長がしづらい≪新しい時代≫にいる。それなのに、これまでと同じような成長モデルを描いている人々によって無理やりにでも景気をよくしようとはするものの、私たちの生活は一向に上向かない。そのため、将来に対して不安を感じているのだ。
リーマン・ショック後、無理やりにでも経済を立て直さなければと、アベノミクスでインフレを起こそうとする。私たちはきっとどこかで感じてはいないか。もうこれ以上の発展した世界などあるのだろうか、と。それだけ今の生活は便利で、苦しい。高齢者が増え、年金制度がゆらぐ。国は「老後に2000万円必要」と言った。定年後も決して安泰ではない。若者は政府が用意したNISAやiDeCoに邁進することになった。
政治、経済、歴史、宗教、そしてアート…。これらの複雑なテーマが見事に織り交ぜられ、現代を解説しきった本著は見事だった。しかし、その未来へのプロセスは示されていない。私たちは、エレンよろしく巨人を駆逐し、壁の外へ出ることができるだろうか。